逸話の日 (記念日 1月28日)
「anecdote」(アネクドート)という言葉の語源は、古代ギリシャ語の「アネクドトス」(anekdotos)にさかのぼります。「公開されていない」「未発表の」を意味するこの語は、フランス語を経由して英語に入りました。つまり逸話とは本来、「まだ世に出ていない話」のことを指していました。知る人ぞ知る、秘められた話というニュアンスが原義に宿っているのです。
18世紀にロシア語に取り入れられた「アネクドート」は、「新鮮さや面白さで人々の関心を引く、実際に起きたとされる出来事についての報告」と理解されていました。19世紀に入ると歴史的正確さへのこだわりは薄れ、機知に富んだ結末を持つ「生活の小話」へと変化していきます。ソ連時代には政治風刺を公言することが危険だったため、「公にできない話」としてのアネクドートが庶民の間で広がり、ロシア人がアネクドートを多数知っていることで知られるようになりました。日本語の「逸話」は、「逸」という字に「世間から外れる・抜け落ちる」という意味があり、正史や公式記録からはみ出した話、という含意を持ちます。著名人の意外な側面や、歴史の節目に起きた小さなエピソードが語り継がれるのは、公式の記録が見落としがちな人間的な側面を補う役割を果たしているからです。ニュートンがリンゴの落下から万有引力を着想したという話や、アルキメデスが風呂から飛び出した話など、科学史に名を刻む人物の逸話は、発見の瞬間を生き生きと伝えてきました。
「逸話の日」は、「い(1)つ(2)わ(8)」という語呂合わせから1月28日に設けられています。まだ広く知られていない興味深い話を語り合い、人物や出来事の本質を逸話から探ることの大切さを伝える日です。「エピソード」はもともと「本筋の外側に添えられた挿話」を意味するギリシャ語由来の語で、和製英語的に逸話の同義語として使われますが、英語本来の「逸話」はあくまで「anecdote」です。一つの逸話が、教科書には載らない人間の本音や時代の空気を鮮やかに映し出すことがあります。