瓢々忌 (記念日 2月19日)

瓢々忌

「死ぬまで書き続ける」という言葉そのままに、1964年(昭和39年)2月19日、小説家・尾崎士郎はペンを置きました。その命日は、代表作『人生劇場』の主人公・青成瓢吉(あおなり ひょうきち)の名にちなんで「瓢々忌(ひょうひょうき)」と呼ばれています。

尾崎士郎は1898年(明治31年)2月5日、現在の愛知県西尾市(旧・幡豆郡横須賀村)に生まれました。早稲田大学政治学科に進んだものの、在学中に社会主義運動へと傾倒し、大学を中退します。堺利彦や山川均といった当時の著名な社会主義者たちと交わり、1921年(大正10年)には大逆事件を取材した『獄中より』を発表。この作品で社会主義的な立場の作家として文壇に立ちました。文学と思想が交差する激動の時代を、彼は正面から生き抜こうとしていたのです。

作家としての転機は1933年(昭和8年)に訪れます。都新聞への連載を開始した青春小説『人生劇場』が、空前の大ベストセラーとなりました。故郷・愛知から上京した青成瓢吉が、早稲田で学び、恋に落ち、友を得て、時代の荒波に揉まれながら生きていく姿は、多くの読者の心を捉えました。連載はその後20年以上にわたって続き、映画化や舞台化も繰り返されました。主人公の名前がそのまま忌日の名称として定着するほど、この作品は尾崎士郎の人生と分かちがたく結びついていました。

私生活では、「奔放な恋愛」で知られる小説家・宇野千代との結婚と離婚も、世間の注目を集めました。二人とも文壇の中心にいた作家同士であり、その関係は当時から話題を呼んでいました。波乱に富んだ生涯そのものが、『人生劇場』という作品世界に反映されているとも言えます。

享年66歳。生まれ故郷の愛知県西尾市には「人生劇場」の碑が残り、地域にゆかりの深い作家として今も親しまれています。毎年2月19日の瓢々忌には、その生涯と作品が改めて思い起こされます。