雅の日 (記念日 3月8日)

雅の日

東京・目黒に「昭和の竜宮城」と呼ばれた建物がある。1935年(昭和10年)に建てられた木造建築「百段階段」——正確には99段の階段廊下が7つの宴会場をつなぐその空間は、天井や欄間に当時屈指の画家たちが描いた絵が埋め尽くされ、桃山文化と江戸の粋が混然と輝く。現在は東京都指定有形文化財として保存され、年間を通じてアート展示が行われている。

この百段階段を擁するホテル雅叙園東京の前身、目黒雅叙園は1928年(昭和3年)に創業者・細川力蔵が開いた。もともと芝浦の自宅を改築した料亭として始まり、「庶民でも気軽に使える晴れの場」というコンセプトが口コミで広まり、1931年(昭和6年)に目黒へ移転して本格的な宴会施設として発展した。婚礼の場として何世代にもわたって東京の家族に記憶され続けてきた場所である。

3月8日は「雅の日」。ホテル雅叙園東京が2008年(平成20年)の創業80周年を記念して制定した記念日だ。「み(3)や(8)び」という語呂合わせで日付が選ばれ、雅叙園が体現してきた「雅(みやび)」の精神——上質で心地よい宴を通じて文化の発展に貢献するという理念を広く伝えることを目的としている。一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録されている。

現在のホテル雅叙園東京は、わずか60室という小規模ながら国際的な評価を得ている。「Small Luxury Hotels of the World」(SLH)加盟ホテルであり、世界80カ国・520軒以上の独立系高級ホテルで構成されるこのグループにおいて、日本国内で認定されているのはわずか12軒に過ぎない。「和敬清心」をコンセプトに、茶室の侘び寂びが宿る静かな空間と光の演出が、海外からの旅行者にも日本の美意識を体感させている。百段階段を設計・装飾した画家たちが残した絵画群は、時代を超えて人々を圧倒し続けている。装飾の豪華さは日光東照宮の系列とも評され、伝統的な美意識の到達点ともいわれる。創業から一世紀近くを経てなお、その「雅」の空間は色褪せることなく東京の中心で息づいている。