吉里吉里忌 (記念日 4月9日)
2010年4月9日、劇作家・小説家の井上ひさしが肺癌のため75歳で亡くなりました。この命日は、代表作『吉里吉里人』にちなんで「吉里吉里忌(きりきりき)」と呼ばれています。没後5年の2015年より、生まれ故郷・山形県川西町で毎年この名を冠した催しが開かれています。
井上ひさしは1934年(昭和9年)11月17日、山形県東置賜郡小松町(現・川西町)に生まれました。本名は廈(ひさし)。上智大学文学部仏文科を卒業後、大学在学中から浅草フランス座で働きながら戯曲や放送台本を手がけ、放送作家として頭角を現します。1964年にNHK総合テレビで放送が始まった連続人形劇『ひょっこりひょうたん島』はその共同執筆による代表作のひとつです。小説家としての名声を決定づけたのが、1981年刊行の長編小説『吉里吉里人』でした。東北の寒村・吉里吉里村が突如として日本から独立を宣言し、独自の言語と通貨を持つ「吉里吉里国」を打ち立てるという大胆な設定で、読売文学賞・日本SF大賞・星雲賞の三賞を受賞しました。地方と中央、言語と権力、国家の本質を笑いとペーソスで問い直すその筆致は、発表から40年以上を経た今も色褪せません。戯曲の分野でも、『道元の冒険』で岸田國士戯曲賞、『手鎖心中』で直木賞を受けるなど、小説と演劇の両輪で時代を駆け抜けました。
晩年には平和憲法の擁護に強い信念を持ち、「九条の会」の呼びかけ人のひとりとしても知られました。2004年に文化功労者、2009年には日本芸術院賞・恩賜賞を受賞しています。
毎年4月9日の命日には、川西町の図書館と劇場からなる複合文化施設「川西町フレンドリープラザ」で「吉里吉里忌」が開催され、縁のあるゲストを迎えて彼の言葉と仕事が語り継がれています。故郷の地でその名が呼ばれ続けることは、井上ひさしという書き手の仕事がいかに深く人々の記憶に刻まれているかを示しています。