ほうとうの日 (記念日 4月10日)
平安時代の随筆『枕草子』に「はうたう」として登場するほうとうは、1000年以上の歴史を持つ料理です。6世紀の中国の農業書『斉民要術』にも類似の麺料理「はくたく」が記されており、9世紀前半には僧侶・円仁が唐を旅した記録『入唐求法巡礼行記』の中で複数の地域でこの麺を食べたことを記しています。「ほうとう」という呼び名は、この「はくたく」が音変化したものという説が有力とされています。
山梨でほうとうが根付いた背景には、土地の事情があります。山間部が多く平野が少ない山梨では稲作に適した土地が限られ、米は貴重な食べ物でした。代わりに小麦が広く栽培され、養蚕が盛んになると桑畑の裏作として麦の栽培が一層普及し、麺食の文化が深く根を下ろしていきました。戦国時代には武田信玄の陣中食としても用いられたと伝わり、江戸時代には甲斐の名物として各種記録に繰り返し登場するようになりました。かつては「ほうとうの麺を打てなければ一人前でない」とも言われ、嫁入り修行の第一歩とされていたほどです。料理としての特徴は、小麦粉を練ってざっくりと切った太くて長い麺を、カボチャなどの野菜とともに味噌仕立ての汁で煮込む点にあります。麺をゆでずにそのまま煮込むため、汁にとろみが出るのが独特の食感を生みます。なお、武田信玄が自ら刀で食材を切ったことから「宝刀(ほうとう)」と名付けられたという俗説は広く知られていますが、言語学的な観点からは否定されており、現代に形成された伝説と位置づけられています。
こうした長い歴史を持つほうとうですが、食生活の変化や核家族化が進む中で、若い世代への普及が課題となっています。この状況を受け、山梨県中央市に事務局を置く「たべるじゃん//ほうとう推進協議会」が、ほうとう関連商品を扱う企業などとともに4月10日を「ほうとうの日」として制定しました。「ほう(4=フォー)とう(10)」という語呂合わせによる日付で、2017年(平成29年)に一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録されています。400年以上前から山梨の人々の食卓を支えてきた郷土料理を、より広く知ってもらうことが目的です。