溶射の日 (記念日 4月28日)

溶射の日

橋梁、航空機エンジン、医療用インプラント——これほど異なる分野をひとつの技術が支えているケースは珍しい。その技術が「溶射(ようしゃ)」です。金属などの表面に、加熱・溶融した材料の粒子を高速で吹き付けることで、耐摩耗性の向上・防錆・防食・耐熱といった機能を付与する表面処理加工技術であり、現代のインフラと産業を陰で守る基盤技術のひとつとなっています。

溶射の歴史は20世紀初頭にさかのぼります。スイス人技術者のマックス・ウルリッヒ・ショープ博士(Max Ulrich Schoop、1870〜1956年)が、金属溶射プロセスの基本特許を1909年(明治42年)4月28日にドイツで登録したことが、溶射技術の出発点とされています。「溶射の日」の日付はこの特許登録日に由来しており、記念日は2021年(令和3年)に一般社団法人・日本記念日協会によって認定・登録されました。制定したのは大阪府堺市に事務局を置く日本溶射工業会で、溶射技術を広く産業界に普及・拡大させることを目的としています。

溶射の工程では、吹き付けられる物質を「溶射材」、施工を受ける側を「基材」と呼びます。熱源には燃焼炎・電気アーク・プラズマなどが用いられ、材料の種類や用途に応じて使い分けられます。溶射材は金属にとどまらず、セラミックスや超硬合金なども含まれ、目的に応じた多様なコーティングが可能です。塗料や電気メッキとは異なり、母材を大きく加熱せずに厚膜の被覆層を形成できる点が、溶射の大きな特長のひとつです。

適用範囲の広さも溶射の際立った特徴です。海や川に架かる橋梁には亜鉛やアルミニウムの溶射による防食処理が施され、塩分や湿気から鋼材を長期間保護します。航空機エンジンの高温部品には耐熱セラミックスコーティングが用いられ、タービンブレードの寿命を延ばします。発電所のボイラーや化学プラント設備にも腐食対策として活用され、医療分野ではチタン製インプラントの表面にハイドロキシアパタイトを溶射することで、骨との親和性(生体適合性)を高める処理が行われています。

日常生活の中で溶射の存在を意識する機会はほとんどありませんが、私たちが使う社会インフラや工業製品の耐久性・安全性の多くは、こうした表面処理技術によって支えられています。「溶射の日」は、目に見えにくい場所で機能している基盤技術に改めて注目する機会となっています。