トリドール、心的資本経営始動 人を軸に改革を加速
ベストカレンダー編集部
2025年9月17日 19:44
心的資本経営始動
開催日:9月1日
省人化の潮流に逆らう選択──トリドールHDが描く「人」の再評価
株式会社トリドールホールディングス(以下、トリドールHD)は、2025年9月17日11時に発表したプレスリリースで、人的資本経営をさらに深化させた独自の経営手法として、人の“心”を起点とする「心的資本経営」を2025年9月より始動すると明らかにしました。代表取締役社長 兼 CEO 粟田貴也氏のコメントも公表されており、同社は省人化・機械化が進む外食産業の潮流のなかで、あえて「人の力」に注力する方針へと舵を切っています。
発表文では、心的資本経営を通じて「従業員の“心”の幸せ」と「お客様の“心”の感動」をともに重要な資本と捉え、双方の“心”を満たし続けることで持続的な事業成長を実現する新たな経営思想であると定義しています。トリドールHDは、創業以来の価値観である「人」がもたらす感動をブランドの源泉と位置付け、店舗での「手づくり・できたて」と人の温もりが感じられる接客を重視するとしています。
心的資本経営とは何か──定義とこれまでの効果
プレスリリースは、心的資本経営を「従業員の“心”の幸せ」と「お客様の“心”の感動」を両輪に据える経営思想であると説明しています。これにより、永続的な人材確保や離職率の改善、求人や教育コストの削減、地域貢献など、多様な価値を長期的に生み出すことを狙いとしています。
トリドールHDは2024年6月(昨年6月)から社内浸透を進めてきたとし、既に一定の成果が出始めていることを公表しました。具体的には、トリドールグループ従業員の離職率が約12.9%低下※1、グループに寄せられたお客様からのお褒めの言葉が24.5%増加※2したとしています。これら数値は、2023年度と2024年度の比較に基づく数字です。
社内での呼称と実践モデル:ハピカン経営と「ハピカン繁盛サイクル」
トリドールHDでは心的資本経営を「ハピカン経営」とも呼び、これは「ハピネス(幸福)」と「カンドウ(感動)」の頭文字を組み合わせた名称です。社内では既に全従業員に向けて共有されていると説明されています。
その実践モデルとして掲げられているのが「ハピカン繁盛サイクル」です。発表文は同モデルを二度にわたって説明しており、顧客の感動体験が蓄積されることで支持が高まり、店舗の持続的な「繁盛」につながる点と、繁盛の成果を従業員へ適切に還元することで従業員のハピネスが高まり、感動体験の質がさらに深化していくという好循環を重ねて説明しています。
具体的施策──新制度とデータ活用で「心」を可視化・還元する
心的資本経営の実行にあたり、トリドールHDは複数の具体的施策を発表しました。中心となるのは店長制度の刷新、新たな福利厚生制度、そして音声対話型AIを用いた独自指標の導入です。以下はプレスリリースに示された施策の全てです。
1) 店長制度から「ハピカンオフィサー」制度へ
従来の店長制度を刷新し、店舗での「ハピカン繁盛サイクル」の実現を主な役割とする「ハピカンオフィサー制度」を導入します。オペレーション業務の一部は他のメンバーへ移管し、ハピカンオフィサーは従業員一人ひとりの内発的動機を引き出し、店舗独自の感動体験の創造をリードする役割へとシフトします。
報酬体系も抜本的に見直され、ハピカン繁盛サイクルの実践レベルに応じて報酬が変動する仕組みを整備します。発表では、最大年収2,000万円を得られる制度とし、大きな貢献に対して大きく報いる報酬体系を掲げました。
丸亀製麺ではこの制度を「ハピカンキャプテン」として呼称し、2025年11月導入に向け研修等を進めると明記されています。さらに、国内の他業態への展開も予定されており、2028年までに丸亀製麺で300名のハピカンキャプテンを育成する目標が示されています。
2) 従業員の子どもを対象とした「家族食堂制度」
従業員本人だけでなく家族にも温かな体験を届けるための新制度「家族食堂制度」を開始します。本制度は、トリドールグループの店舗で働く従業員の家族(15歳以下のお子さま)を対象に、所属するブランドの全国のお店でいつでも無償※3で食事を楽しめる機会を提供するものです。
導入時期と対象ブランドは以下のとおりです。2025年12月より丸亀製麺、天ぷらまきの、焼き鳥とりどーる、長田本庄軒、とんかつとん一で導入を開始し、その後他ブランドへも展開を検討するとしています。企業側が家庭とのつながりを支えることで、従業員の安心感や幸福感を高め、職場理解の促進も期待する狙いです。
3) 国内初とする指標導入:音声対話型AIを用いた「ハピネススコア」
トリドールHDはデータサイエンスを用いて「感動」と「繁盛」の相関分析を行うため、独自指標として「ハピネススコア」を設計・導入しました。丸亀製麺では昨年4月からお客様の食後の感情をアンケートで「感動スコア」として可視化し、今年7月からは店舗で働く従業員の心の満足度を計る「ハピネススコア」を導入しています。
発表では、音声対話型AIを活用した手法を組み合わせることで従業員の心の状態を可視化し、業績との相関・因果関係を複数の統計手法で明らかにする計画を示しています。初期分析では、ハピネススコアが高い店舗ほど感動スコアが高く、業績への貢献も確認されているとしています。トリドールHDはこの点を根拠に、ハピカンアクションの促進にデータサイエンスを活用する方針です。
なお、同社はこの取り組みを国内初としています(アルサーガパートナーズ調べ、2025年9月現在)。プレスリリースでは、国内の主要な従業員エンゲージメント測定サービス8社を徹底比較した調査結果を根拠として挙げています。
導入スケジュールと期待される効果、実績の数値
プレスリリースは導入スケジュールや期待される定量的効果、および既に確認されている実績数値を明記しています。以下は発表された年月日や数値、対象ブランドなどを整理したものです。
主な日時・数値の要点は次のとおりです。
- 発表日:2025年9月17日 11時00分
- 心的資本経営始動:2025年9月より
- 丸亀製麺にてお客様の感動スコア化開始:2024年4月(昨年4月)
- 従業員のハピネススコア導入:2025年7月(今年7月)
- ハピカンキャプテン(丸亀製麺)の導入研修:2025年11月から
- 家族食堂制度導入:2025年12月より(丸亀製麺・天ぷらまきの・焼き鳥とりどーる・長田本庄軒・とんかつとん一)
- 育成目標:2028年までに丸亀製麺で300名のハピカンキャプテン
- 成果(社内比較):離職率が約12.9%低下※1、顧客からのお褒めの言葉が24.5%増加※2(2023年度と2024年度の比較)
- 報酬体系:ハピカン繁盛サイクルの実践レベルに応じて変動、最大年収2,000万円
発表資料に含まれる注記
プレスリリースには注記が付記されています。離職率やお褒めの言葉の増減は、トリドールグループの数値を2023年度と2024年度で比較したものであること、家族食堂制度の無償提供にはブランドごとの利用条件があること、音声対話型AIを活用した指標の「国内初」という表現はアルサーガパートナーズの調査(2025年9月時点)に基づくものであることが明記されています。
これら注記は、取り組みの有効性や比較根拠を明確にするための重要な情報です。社外に向けた数値や宣言を伝える際の留意点として扱われています。
ハピカン経営の全体像と整理(表)
これまでに本文で触れた施策、スケジュール、数値、関連する注記を下表に整理しました。発表内容を一目で確認できるようにまとめています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発表日時 | 2025年9月17日 11時00分 |
| 開始時期 | 心的資本経営:2025年9月より |
| 定義 | 従業員の“心”の幸せとお客様の“心”の感動を共に資本とする経営思想(ハピカン経営) |
| 実践モデル | ハピカン繁盛サイクル(感動→支持→繁盛→従業員還元→ハピネス向上→感動深化の好循環) |
| 主要施策(制度) | ハピカンオフィサー制度(店長制度刷新/最大年収2,000万)、家族食堂制度(15歳以下対象、2025年12月開始)、ハピネススコア導入(音声対話型AI活用) |
| 導入スケジュール(主要) | ハピカンキャプテン研修:2025年11月開始(丸亀製麺)、家族食堂制度:2025年12月開始(対象ブランドあり)、300名育成目標:2028年 |
| これまでの実績 | 離職率:約12.9%低下(2023年度 vs 2024年度)※1、お褒めの言葉:24.5%増加(2023年度 vs 2024年度)※2 |
| 調査・注記 | 家族食堂制度の無償利用はブランドごとの利用条件あり(※3)、ハピネススコアの導入はアルサーガパートナーズ調べで国内初とされる(2025年9月現在)※4 |
| 関連リンク | 心的資本経営サイト: https://www.toridoll.com/management-philosophy/happiness-capital-management 公式note: https://note.com/toridollholdings |
記事ではプレスリリースに含まれるすべての情報を整理し、トリドールHDが打ち出した心的資本経営の趣旨、実践モデル、具体的制度、導入時期、数値的な実績および注記をまとめました。省人化が進む業界環境の中で、同社が「人の力」を経営戦略の中心に据える選択をしたこと、具体的な制度設計とデータ活用によってその実効性を検証しようとしている点が確認できます。
なお、本文に挙げた各数値や時期、制度の詳細はトリドールホールディングスの発表内容に基づくものであり、家族食堂制度など利用に関する条件はブランドごとに定められている点に留意が必要です。