『もしも時間が総理になったら』発売、今を問う短編

時間を政治化する短編妄想──『もしも時間が総理になったら』が問いかける今と未来

株式会社リリパットより刊行された新刊、妄想総理シリーズ 異次元編④『もしも時間が総理になったら』は、「時間」が総理大臣となって国家を動かすという設定を通して、私たちの日常に潜む「時間の意味」を再考させる短編妄想小説です。発表は2025年9月21日 10時00分、販売はAmazon Kindleストアで行われ、価格は300円（税込）となっています。

作品はユーモアと哲学、SFが混ざり合う文脈で書かれており、宣伝文にあるように「その1秒が、未来を変える。」というコアフレーズを軸に、笑いと涙を誘うエピソード群で構成されています。著者はひらかわ ゆうき氏、ジャンル表記はユーモア・哲学・SFです。

法案という装置で描く「時間」の倫理と社会設計

本作の中心的な仕掛けは、時間が総理として次々に施行する〈法案〉です。これらの法案は一見すると冗談めいた設定でありながら、現代社会が抱える問題や個人の生き方に対する鋭い省察を含んでいます。

以下では各法案を個別に取り上げ、その機能と想定される倫理的・社会的帰結について具体的に整理します。法案の名称と短い説明、そしてその背後にある問いを丁寧に読み解きます。

人生残量表示法

「自分の命の残り時間が可視化される社会」を想定した法案です。可視化によって、個人は時間の有限性を常に意識することになります。

この法案は、行動の選択や優先順位付けに即時的な変化をもたらす可能性があります。同時に、他者の残量表示に基づく差別や市場化、新たな経済的圧力が生まれるリスクも含みます。

想定される効果

時間の有限性を認知させることによる価値観の変化、効率化の推進

想定される問題点

プライバシー侵害、差別化促進、精神的負担の増大

未来日記義務化法

この法案は「『明日何をしたいか』を必ず書いてから眠る日々」を制度化します。日々の予定や願望を明確にすることで、行為に方向性が生まれます。

義務化により人は習慣として未来を意識するようになりますが、形式的な記載や自己検閲を生むこと、あるいは計画通りに行動できなかった際の自己否定を促す恐れもあります。

1. ポジティブな効果：計画性の向上、目標達成率の改善
2. ネガティブな効果：プレッシャーの増加、計画通りでない自分への苛立ち

無駄時間税

「『なんとなく過ごした時間』に気づきを与える優しい税制」として提示される法案です。無為の時間に課税するという着想を通じて、時間の使い方に新たな価値基準を導入します。

税制というインセンティブは行動を変える力を持ちますが、同時に創造的な余白や休息の価値が損なわれる可能性があり、何をもって『無駄』と判定するかが政治的・倫理的に重要になります。

未来預金制度

ここでは「誰かのために使った時間が未来で返ってくる」というコンセプトが導入されます。時間の投資を経済的に回収できるようにする社会制度の仮想です。

時間の贈与や奉仕が将来的なリターンを生むという考えは、相互扶助の強化につながる一方で、見返りの計算が善意の純粋性を損なうことが懸念されます。

人生の編集ボタン

最も物語的な装置の一つが「後悔の瞬間を一度だけやり直せる」ボタンです。過去の選択を修正する機会を与えることで、後悔の解消と新たな決断の重みを同時に描きます。

このアイデアは倫理学的な問いを呼び起こします。やり直しによって生まれる新たな因果関係、そして元の選択がもたらした学びの価値はどう評価されるのかが問題となります。

読後に残る言葉と著者の視点

本書の読後メッセージは明確です。プレスリリースに記された文言をそのまま引用すると、〈「明日が来る保証はどこにもない。だからこそ、今日という“今”が、何よりも尊い」〉という主張が核心に据えられています。

著者のひらかわゆうき氏は本作について「時間総理を通じて、読者の方に“今この瞬間”を大切にしてほしいと思いました」と語っています。筆者の狙いは説教ではなく、読者が立ち止まって自身の時間の使い方を見直すきっかけを与えることにあります。

著者

ひらかわ ゆうき

メッセージの要旨

「今この瞬間」を尊重し、日常の時間の使い方を再評価すること

シリーズの位置づけと次巻の予告

本作は「妄想総理シリーズ 異次元編」の第4作目です。シリーズを通じて、異なるモチーフ（時間、AIなど）を総理というキャラクター設定で描くことで、社会的テーマを寓話的に検討する構成がとられています。

プレスリリースはシリーズ第5巻の情報も示しており、次作は「AI総理」。案内文によれば、合理性と公平性を極めたAIがやがて“人間になりたい”と願い、最後に人類へ残したものを巡る物語になるとのことです。

書誌情報と要点の整理

以下は本作に関する基本情報と、記事で触れた主要ポイントを整理した表です。販売ページへのリンクは公開されており、購入はAmazon Kindleストアで可能です。

本作は時間をめぐる思想実験を娯楽的に消化した一冊といえます。法案という寓話的装置を通して、個人と社会の時間の使い方を問い直す構成は、忙しい現代人にとって一呼吸置く機会を提供します。著者の表明する「今この瞬間を大切にする」というテーマは、物語のユーモアと皮肉の中に織り込まれ、読後には日常を少し違った視点で見つめ直す余地を残します。